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大体一ヶ月振りです。皆さんお元気でしたか?
私はそこそこ元気です。
のんびりしてたら3月も終わりになってました。
正直、時間の流れを嘗めていたとしか思えません。

それと、ようやくタイトル決めました><
話の都合上次回発表しますね。
まぁ、時間があればの話だけd(ry
現在時刻は夜七時、逢坂に扮する烏丸は屋敷に到着した。

(さてと、逢坂君はどこだろな、っと)

 烏丸はまだ気付いていない。自身が探す『逢坂君』はここにはいないことに。

「ぁ、玲ちゃん発見」

 白山が烏丸の下へ走り寄ってきた。勿論二人が会うのは初めてである。烏丸には白山が何者なのか、逢坂との関係はどのようなものか分からない。烏丸は手探りの状態で白山と接して行き、逢坂を演じなければならなかった。

「もー、遅いよ玲ちゃん」
「悪い悪い、ちょっとトラブルがあってな」
(なるほど、「れいちゃん」か。名前に「れい」が含まれるということだろうか)

「まぁいいや、とにかく早くご飯食べに行こう」
「お前何しに来たんだよ、今日は結婚披露パーティーだろ」
「パーティーに来たって言うより、仕事に来たんじゃなかったっけ?怪盗スイカウォーターさんがどうのこうのって」
「スカイウォーカーな、いかした名前だぜ」
「さっきは中二レベルのセンスだって言ってたのに」

 烏丸は少し傷ついた。長年使ってきた愛着のある名前なので、否定されると些か悲しい気分になった。でもその代わり収穫もあった。白山の言葉から、烏丸が変装している逢坂は『れいちゃん』と呼ばれていること、白山は逢坂の仕事仲間であることが分かった。

「まぁ、名前のことは置いといてだな、とりあえず屋敷の主人に会いに行くか」
「その前にちょっと御飯」
「後にしろ」

烏丸は、食への執念を燃やす白山を引き連れ、この家の主人である、成田 金蔵(なりた きんぞう)を探す。下調べをしておいたから、顔を見れば分かるはずだ。人の山を掻き分け奥の方へと進むと、ワインを片手に談笑する金蔵の姿があった。恰幅のいい体格にオールバックの白髪、齢六十を越える老人だが、精力的な顔つきからは衰えは感じられない。
隣にいるのは、金蔵の娘、裕花(ゆうか)だろうか。花嫁である彼女が、ウェディングドレスではなく、豪奢なパーティードレスを着ていることから、パーティーの目的は、結婚披露というより、挨拶回りにあるようだ。
裕花の容姿は、背格好や顔立ちまで白山とよく似ていた。白山と違うところと言えば、佇まいに気品を感じるところだろうか。それに、年は恐らく白山の方が上だが、裕花の方が大人びている。やはり育ちの差は大きいのだと、烏丸は一人で感心していた。白山のことを烏丸はよく知らないが、白山の人間性はこれまでのやり取りでおよそ掴んでいるつもりだ。

烏丸はどう彼らに話を切り出そうかと考えていたが、金蔵はこちらの視線に気付くと、足早に近付いてきた。予想外の事態だったが、烏丸にとっては好都合だ。話を切り出すべく、金蔵に声を掛ける。

「こんばんは、成田金蔵さん」
「何だ貴様は、儂は忙しいのだ、邪魔をするな」

 やはり取り付く島もなく追い払われた。さてどうするか、烏丸は一思案…

「おっとそこの幼い顔立ちのお嬢さん、お小遣いをあげるから儂と一緒に散歩でもしないかね?」
「お小遣いくれるって!玲ちゃんこのお爺さんすごくいい人だよ!」
「それ世間では援助交際っていうからな」

金蔵の物言いには白山は気にしない風だが、年頃の女性を捉まえて幼い顔立ちとは、随分なご挨拶である。
烏丸にはまるで関心を示さない金蔵だったが、そこへ裕花がフォローするように割って入った。

「すみません、父は外見が十八歳以下の女性にしか、興味を示しませんので」

何の気休めにもなっていないが、金蔵のことはよく分かった。何にせよ、金蔵の嗜好のおかげで、話すきっかけを作ることができたのは僥倖だ。烏丸は白山に耳打ちした

「これはチャンスだ、成田金蔵に自己紹介して、仕事について話すきっかけを作れ」

 好都合だ、と烏丸は思った。烏丸は白山の名前を知らない。白山と、現在自分が成りすましている逢坂の名前を引き出すことは、見破られないよう振舞うためには急務となる。思ったより早く、そのチャンスが訪れたのだ。

「そっか、私の名前は白山幸って言います、この玲ちゃんと一緒にダッ!」

 烏丸は白山の後頭部を叩いた。スパーンという快音が似合いそうな、キレのある一撃である。

「愛称じゃなくフルネームで話せ、しかも初対面の目上の方相手に、どういう口の利き方だ」
「いつもはそんなこと言わないくせに、えー、先ほど鋭い突っ込みを見せたのは、玲ちゃんこと逢坂玲です、私は玲ちゃんの助手的な仕事をしています」
(あれ?「玲ちゃん」の苗字は逢坂なのか。…もしかして僕は壮絶な人違いをしてしまったのだろうか)

 ここに来てようやく烏丸は自分の犯したミスに気付いた。が、もう事態は引き返せないところまで来てしまっていた。金蔵は既に話を聞く体勢になっている。

「何だ、君は彼女の上司なのか、先ほどはどうも失礼した」
「お気になさらず、それより少々お時間を頂けますか?」
「勿論だとも」

とんでもない変わり身の早さだった。人違いに気付いた今となっては、烏丸にとって金蔵の変わり身は不都合なだけだった。仕方ないので、烏丸は自分たちが探偵事務所の人間であること、怪盗と名乗る男から、予告状が送られてきたこと、要点をまとめて説明した。金蔵はそれを黙って聞いていた。流石は名家の長だけはある、その沈黙には圧力がある。話が終わると、金蔵は一度頷き、重々しく口を開く。

「よく分かった、しかし、それが君の嘘である可能性や、君が怪盗とやらと共謀している可能性がある以上、この話を鵜呑みにするわけにはいかんな」

 金蔵の目つきが鋭くなる。いくつもの企業を統べる、頭としての風格がそこにはあった。
確かにそれは烏丸も考えていたことだ。どこの誰かも分からない人間が、突然そんな話をしたところで、信じられるはずもない。烏丸本人が、私が怪盗ですと名乗り出ればあっさり解決するが、そんなことをするわけにもいかない。
 だが、金蔵の物言いに反発した者がいる。白山だ。

「嘘じゃないよ、予告状の中に、パーティーのチケットがあったんだもん!」
「白山君がそう言うなら、信じよう」
「…お父様」

 五秒で前言撤回した。裕花はもう溜息しか出ない。金蔵は優秀であると同時に馬鹿だった。馬鹿な親を持つと、困るのは子供なのだ。
烏丸も金蔵の態度に苛立っていたが、あくまでもビジネスと割り切って、忍耐強く話を続ける。

「信じていただけて幸いです、ところで、怪盗の言う、美しい花を一輪いただく、というのは、何かの比喩であると私は考えているのですが、何か心当たりはあるでしょうか?」

 差出人は烏丸なので、勿論知ってはいるのだが、逢坂を演じるには必要な手順だった。

「それは恐らく、このブレスレットのことではないでしょうか?」

 答えたのは裕花だ。見れば彼女の右手首には、幅の広い銀色の腕輪があった。古風な装飾と様々な宝石が腕輪を彩っていたが、特に目立つのは銀細工で作られた花びらである。そういったものに関心のない白山と、最終的に金になるかどうかしか興味のない烏丸だったが、腕輪が想像も付かないほどの高価な代物であることだけは理解できた。烏丸は獲物の価値を確信した。
そんな二人を余所目に、金蔵は腕輪について講釈を始めた。

「こいつは成田の宗家が代々受け継ぐ腕輪でな、成金趣味のご先祖様が、指輪じゃ目立たないからと言って、職人に作らせたんだ、代々これを受け継いできた成田家の女からは、重くて敵わんと不評だがな」
「へぇ、そうなんですか」
「すごいですねー」

二人は明らかに話を聞いていない反応だった。

「とにかく、話の流れで分かるとは思いますが、その腕輪の警備を、我々に任せて頂きたいのです」
「…よかろう、君たちが怪盗の手から、腕輪を無事護りきれた暁には、相応の対価を支払うと約束しよう」

 単刀直入な烏丸の申し出に、金蔵は諒解した。

「おや、御義父様、こんな所におられたのですか」
 烏丸の背後から、声が飛んできた。声の主は、新郎の富野 実利(とみの さねとし)だ。
烏丸はすかさず彼を観察する。人物を知る、見極めるということは、変装において重要な意味を持つ。立ち振る舞いは、裕花を人目見たときのように、育ちの良さを思わせるが、彼女とは決定的に何かが違う。烏丸は、そう感じた。

「ところで、そちらの方々は?」
「探偵事務所の、白山君と逢坂君だ、怪盗が腕輪を盗むと予告状を出してきたため、彼らに警備を依頼したのだ」
「腕輪が狙われているのですか、それは心配ですね」
「ご心配なさらず、我々がお守りします」
「あぁ、よろしく頼むよ、しかし君が探偵ね…」
「それが何か?」
「いや、何でもありません、活躍を期待していますよ」

 慇懃な態度とは裏腹に、言葉一つ一つに、含みがあるように感じる。今の会話で、烏丸は、富野実利という人間の、本質を理解した。自らを優秀であると信じ、それ以外の人間は取るに足らない小さな存在であると考えている、エリート意識が彼の精神の柱だ。折り目正しい態度を取るが、本心とのズレが、行動に違和感を与え、言葉からは侮蔑の感情を放っている。だが、本人はそれに気付いていないようだ。

 烏丸は、友達にしたくないタイプだと思った。隣に立つ白山も、彼に少なからず嫌悪感を抱いたようだ。白山は表情に出るから分かりやすい、と烏丸は思った。その白山が、耳元で囁いた。

「ねぇ玲ちゃん、こういう人をホウトウムスコって言うの?」
「いや、仕事はきちんとしてそうだから、社会人としては腐れ外道、親にとっては自慢の息子(笑)が適切だ」
「おい、聞こえているぞ!」

 小声の会話だったが気付いたようで、富野はいきり立って詰め寄る。しかしこの場合、誰だって怒って当然。二人に配慮が全く足りていなかったことに間違いはない。

「さーせーん、聞こえてたんすかー」

 白山は、バイトが店長に謝る程度のテンションで、謝罪した。

「でも、先に言ったのはこいつですから」

 烏丸に至っては謝罪すらなく、小学生並の言い訳をした。あくまで依頼主は金蔵である。それ以外の人間に気を使う必要はない。ましてそれが気に喰わない奴ともなれば尚更だった。

「そもそも聞こえなければいいという問題ではないし、先だの後だの関係ない!」
「まぁまぁ実利君、落ち着きなさい」

 間に入ったのは金蔵だ。これは烏丸にとって意外だった。金蔵は、(外見が)若い女性以外のことには、我関せずな態度を貫くと思っていたが、どうやら見込み違いだったようだ。

「お父様は、喧しくて白山さんの平坦な胸元に集中出来ない、と申しております」
「御義父さん!?」
「平坦言うなぁ!」

 どうやら烏丸の眼に狂いはなかったようだ。しかし、誰からもフォローがない所を見ると、どうやら富野に味方はいないようだ。

「くそ、僕を侮辱したこと、後悔させてやるからな!」

 捨て台詞を吐いて、富野はその場を後にした。ちなみに、それを宣言通り実行できた人間は、歴史上数えるほどしかいない。

「行っちゃったねー」
「全く、堪え性のない奴だ」
「誰の所為だと思っているのかね、君たちは」

 金蔵はわざとらしく嘆息した。

「金蔵さんも乗ってたじゃないですか、義理でも息子なのに」
「なに、儂の子は今も昔も裕花だけだ」

 烏丸の問いかけに答えた金蔵は、どことなく寂しげな眼をしていた。娘の結婚を前にすると、親はこういう表情を見せるのか、と烏丸は思った。ただ、成田家に実利が婿養子に入る形なので、そのような眼を見せる理由が、正しいのかどうかは分からなかった。

「お父様、私少々疲れたので、部屋に戻って休ませて頂きます」
「九時には皆様に挨拶をするから、それまでには戻ってきなさい」
「では、警備のために、我々もご一緒しましょう」

 烏丸と白山は、裕花に彼女の部屋へと案内された。両開きの扉の向こうには、体育館に匹敵するほどの空間が広がっていた。

「うわぁ、広―い」

 白山は感嘆の声を上げ、辺りをきょろきょろと見回している。

「あまりみっともない真似するなよ、田舎者と思われるだろ」
「む、玲ちゃんも同じところから来てるじゃない」
「そうだったか?覚えがないな」

白山が落ち着かないのも無理はない。この部屋は一般人では想像もつかないほど広いのだ。あちらこちらに点在する家具は、どれも立派なものばかりであったが、現在地から遠すぎるせいで、一回り小さく見えるほどだ。

「落ち着かない部屋ですみません、こちらへどうぞ」

 裕花はそう言って、ソファへと誘導した。

「ふかふかー」

 お約束だが、白山はソファに座って飛び跳ねる。烏丸は、はしゃぐ白山の後頭部を引っ叩いた、これもお約束。

「すみません、こいつは少々礼儀を知らないものですから」
「いえ、気に入ってくださった様で、よかったですわ」

 裕花は微笑んだ。そういう仕種が似合う女性だ、と烏丸は思った。

「そういえば、裕花さんはお幾つですか?」

 白山の何気ない質問。

「今年で十八になります」

 ちなみに富野の年齢は二十九歳、十一歳差だ。世間では政略結婚だという声も大きく、批判も多く見られる。烏丸は事前の情報収集で、富野家側の脅迫とも取れるアプローチが、今回の結婚に大きく関わっていることを知っていた。金蔵は断固として拒否したが、成田家と富野家の抗争に発展する前に裕花が折れ、今日に至るというわけだ。

「ぁ、じゃあ私が裕花さんと玲ちゃんの丁度間だね」
「そうなんですか、逢坂さんはお幾つですか?」

 そう言われて、烏丸は少し考える。白山の年は幾つだろうか。裕花との年齢差が、白山と逢坂の年齢差とイコールになるわけだから…

「二十…二十二だったかな」
「玲ちゃんは二十四でしょ、私が二十一なんだから、大体何で二十一飛ばしてるのさ」
「お前の年なんか興味ねぇよ、それに一々自分の年齢なんか覚えてられるか」
「玲ちゃんが物忘れなんて、珍しい」
「人間たまには間違いや物忘れもするだろうよ」
「人間ねぇ…今日は玲ちゃんいつもと雰囲気違うかも」

 先ほどの白山の言葉をヒントに、自分の年齢を導き出そうとしたのが、白山の年齢も覚えていないため、結局は失敗に終わってしまった。

「むー、じゃあさ、兄弟は?裕花さん」
「娘は一人って、金蔵さんは言ってなかったか」
「父がそんなことを?」

 裕花は少し驚いたような声を上げた。

「兄弟いるの?」

 白山の問いに、裕花は押し黙ってしまった。先程の反応で、すでに手遅れだと思うのだが、それでも裕花は話せないようだった。質問を切り出した白山は、何かまずいことでも聞いてしまったのだろうかと、困ったように烏丸を見た。

「どうも答えにくい質問をしてしまい、申し訳ありません」

 烏丸は、軽く頭を下げた。

「気にしないで下さい、これは成田家の問題ですから、ただ…」
「ただ?」

 烏丸は相槌を打ち、話を促す。

「お父様にとっての娘は、私一人ですが、私には姉様という大切な人が、確かに存在します」

 裕花は、はっきりとした口調で、そう告げた。その眼からは、迷いの色は見られない。父親の言いなりではなく、自分の確固とした意思を持っているのだと、烏丸は感じた。

「ねぇねぇ、玲ちゃん」

 白山は、烏丸の肩を人差し指で二度叩き、注目させる。白山はどことなく落ち着きがない様子だ。烏丸はその呼びかけに応じる。

「トイレどこ?」

 白山は烏丸にしか聞こえないような声で聞いた。

「お前もう帰れよ」

 烏丸は呆れ顔でそう言った。

「乙女のピンチなのに!」
「あー、はいはい、この部屋出て左に進んで、二番目の十字路を右、ずっと真っ直ぐ行って、突き当りを右に曲がればあるはずだ、さっさと行ってこい」
「ありがと玲ちゃん、ダッシュで行ってくる!」
「住人の目の前で廊下走る宣言するなよ」

 白山は、烏丸の言葉も聞かず、さっさと走り出して行ってしまった。烏丸はちゃんと行き方も聞いていたのか気になったが、大体行き方の説明が間違っているたで、放っておくことにした。
間に合わなくても裕花に聞かなかった白山が悪い、自己責任だ。そんな風に自分の中で言い訳した。

「ふふふ、白山さんは面白い方ですね」
「面白すぎて困るよ」
「何だか彼女を見てると、姉様を思い出しますわ」
「お姉様は、あんな馬…活発な方だったのですね」
「えぇ、私が三歳の頃なので、おぼろげな記憶しかありませんが、よく姉様に手を引かれて、お屋敷を走り回っていた憶えがあります」
「そうなんですか、それじゃ二人は顔立ちも似てるし、本当の姉妹みたいですね」

 裕花は話をしながらも、頭の片隅に何か引っ掛かるものを感じていた。何か大切なことを見落としているような、もどかしい感じ。記憶を遡ると、その正体が段々と掴めてきた。漠然とした不安感が、一つの仮説へと変わった。

「逢坂さん…少々、お聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょう?」

 烏丸は鷹揚に構えて返事をしたが、それに対して裕花は、不安と緊張が入り混じった表情を見せている。心なしか、声も震えていた。

「私、あなたとお会いしたことはありましたか?」
「いえ、初めてお会いしたはずです」
「ではこの屋敷に来たのは」
「もちろん初めてです、世界に名を轟かす成田家が、我々のようなしがない探偵を、屋敷に入れるなんてことはないでしょうから」

 やはりそうか、と裕花は思った。裕花自身も、逢坂とこれまで面識があったとは思えない。

「どうして白山さんに嘘の行き方を教えたのですか?」

裕花は緊張で呼吸を乱しながらも、声を押し出した。それに対し烏丸は沈黙を返した。
初めて来た屋敷の間取りなど、逢坂が知るはずがない。それでも白山にトイレへの行き方を教えたのは、何か理由があってのことだろう。
裕花は、もっと早く逢坂の持つ違和感に気付くべきだったと、自らの迂闊さを呪った。
しかし、もう後戻りは出来ない。意を決し、深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた。

「では質問を変えます、あなたは本当に逢坂さんなのですか?」

……

 白山は走っていた。まだ見ぬトイレを目指して。烏丸の説明通り部屋を出て左、二番目の十字路を右へと進み、現在はずっと真っ直ぐの最中だった。しかし、一向に突き当たりは見えてこない。はじめのうちは我慢して早歩きで進んでいたが、次第に危機感を感じジョギング、ランニング、ダッシュへとペースを上げ、廊下を全速力で駆け抜けていた。踏み込んだ足の下で絨毯が波打つ。一歩一歩が推進力となり、小柄な白山の体躯を前へ前へと運んでゆく。無風の室内で、白山は風を感じている。

「って、やってる場合じゃない!トイレどこだぁ!」


………

 全速力で屋敷内を駆け回った後、何とか白山は辿り着くことができた。烏丸の適当に教えた道は、当然間違っていた。

「よくよく考えてみれば、玲ちゃんがこの家の中なんて知ってるわけないよねぇ」

 帰り道、白山は駆け足で戻りながら考えた。今頃になって騙されたことに気付いたわけだが、その理由まで考えるには至らない。探偵事務所の肉体労働担当は、どこまでも思慮深さからは遠い存在だった。
軽快な足取りで歩を進め、裕花の部屋の扉を開けたとき、白山はようやく異変を感じ取った。部屋を見渡しても烏丸と裕花の姿はなく、開け放たれた窓から吹き込む夜風が、カーテンを揺らしているだけだった。
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